ちょっと一息:海外駐在員コラム
アメリカ、ヨーロッパ、シンガポール、そして中国より現地での体験談や話題など様々な情報をお届けいたします。
ヨーロッパ編
- 第10話 「二度と遭遇したくない出来事 − 客室乗務員の暴言」
- 2007/11/7
- AT&T 英国駐在員 八文字 保男
I don’t get paid to do that!(そんなことまでする給料は貰っていない!)女性の徒ならぬ強いセリフが突然耳に飛び込んで来たのは、離陸前の欧州系航空会社の英国出発便の機内での事でした。新聞を読んでいた私にはっきりと聞き取れる刺激的な言葉を発したのはすぐ傍の通路に立っていた若い女性客室乗務員。何事かと彼女の方を見やると彼女の視線の数メートル先に中年の婦人が不機嫌そうにその乗務員を見据えて立っているのが目に入りました。婦人は大きめの手荷物を引いており頭上荷物棚に視線を送っていたので、手荷物を棚に入れるにあたってその女性乗務員から先の徒ならぬ言葉が飛ぶことになったものと状況が読めました。その穏やかではないセリフを聞くや件の婦人は女性乗務員に歩み寄り「会社宛に苦情報告する。貴方のお名前は?」と迫りましたが、女性乗務員は悪びれることもなく自分の氏名をはっきりと2度言いながら胸の名札を相手にかざしていました。
そんな刺激的なセリフをお客様へよくも言えるものだと暫く呆気に取られていましが、これも異文化の地ならではのことと最初は軽く受け止めていました。が、日頃当地で遭遇する“遠慮のない断り表現”や“言い訳上手(どちらかと言えば“言い逃れ上手”)になんとも割り切れない思いを持っていたこともあり、尚且つこんな狭い空間の中で周囲の人間までも不愉快にするようなTPOを考えないこの言葉使いがなんとも腑に落ちずに、この事態に関して地元の方の率直なご意見を聞きたくなってお隣の方に訊ねてみました。お隣は初老の英国人婦人で事の顛末を始めから目撃していたとのことでした。「女性乗務員は声を掛けられた際に、男性乗務員を呼ぶので暫く待つように言ったが婦人はそれでも、男性を待たなくても貴方でも出来るはず、と再度要請した。女性乗務員は手荷物の重さを確かめもしないで男性乗務員に任せることを判断したようだが、少なくとも声を掛けている婦人の傍へ少し歩み寄って耳を傾けるべきだった。あの言葉使いは極めて乱暴でありお客様に決して言ってはならないセリフ」と眉を顰めながらの解説でした。強すぎるセリフに関する受け止め方は私と全く同じでしたが、ただ最近は眉を顰めるマナーが増えており紳士淑女の国も今や昔、とのお話でした。
歴史上何人もの女傑を輩出した英国。スペイン無敵艦隊を撃破して英国を世界列強へ押し上げる基礎を築いたエリザベス一世や80年代英国病と揶揄された経済を再生させた鉄の宰相サッチャー首相が思い浮かびます。そんな歴史と伝統から英国は女性の社会進出が最も進んだ国の一つで言ってみれば世界のトップランナー。日常生活の中で例えば二階建てロンドン・バスや大型トラックに女性運転手を見かけますし、パトカーは多くの場合男女警察官ペアーで行動しているし、何回かの引越しでお世話になった街の不動産斡旋業の営業所責任者や営業担当者は殆どが女性でした。女性パイロットも欧州では珍しくありません。一昔前には男の世界といわれていた様々な職場に今や逞しい女性が進出しています。ただ一方ではその逆の現象が起きている職場があります。仕事柄よく利用する英国を基点とする欧州域内のフライトで目立つことは、“笑顔を絶やさず甲斐甲斐しく働く若い男性客室乗務員”の姿。英国では、街の中、乗り物の中、駅のホーム、レストラン、エレベーター、そして階段で、ドアを抑えてあげたり、重い荷物でお困りの方へ自然に手を差し伸べる優しく力持ちの男性をよく見かけます。そんな男性はフライト客室乗務員としては正に適任であると納得。敢えて大袈裟に申し上げれば“英国の空は男性客乗務員が主流”そんな時代の到来を予感させる出来事でした。
