最新動向レポート
第72回 Webやシステムの重要課題−ユーザビリティ向上
- ソシオメディア株式会社 シニアコンサルタント
- 川添 歩 氏
- http://www.sociomedia.co.jp/
システムを構築する上で大きな課題となっているのが「ユーザビリティ」という概念だ。強固で柔軟なシステムを構築しても、利用者にとって使い勝手が悪ければ意味がない。どう使い勝手を上げていくのか、Webサイトやシステムのユーザビリティ評価や改善を主な業務にしているソシオメディア株式会社の川添氏に話をうかがった。
(2007/11/19)
−− ユーザビリティという視点で、さまざまなWebやシステムの評価をされていますね。
川添ネットワークが発達する過程で、多くの技術が生まれてきました。最新技術を利用することにより、ネットワークを利用してできるサービスの範囲や機能はどんどん広がっています。こうした中で、最近ニーズが高まっているのがユーザーの使い勝手、という観点です。最新技術を盛り込んでも、使い勝手が悪ければ良いネットワークとは言えません。使いやすさ、わかりやすさがあってはじめて良いネットワーク、と言えると考えています。
もちろん、使い勝手という視点自体は以前からあったものです。しかし、インターネットをはじめとするネットワーク環境が普及し、以前よりも使い手が多様化していることから、この考え方の重要性が増していると考えています。
ソシオメディア株式会社は、「使いやすい、わかりやすい」ユーザーインターフェースを広く提案していくことを主な業務にしています。2001年の設立以来、240社を超えるWebサイト、システムについて評価・検証してきました。こうした多くの事例を通じて、ユーザビリティの向上に貢献していると考えています。また、広い意味での「ITとデザインの融合」を考えるカンファレンス『DESIGN IT!(http://www.designit.jp/)』を、2005年から開催しています。今年も12月11日、12日に世界的にも著名な講演者を招いて開催する予定です。
−− 使い勝手は定性的なものですが、それを定量的にも評価していますね。
川添ユーザーの視点と使い勝手についての知識を持った専門家が、定性的に評価する方法が基本です。しかしシステムの変更による効果を測ったり他システムとの比較のためには、定量的な評価も必要です。感覚的なものを数値の形で評価するのは難しいことですが、使い勝手を決める大原則を設定し、その下にいくつかの明確な基準を設けることで、数値化することは可能です。原則を細分化していくことによって、数値的な評価の軸ができるのです。
私たちは、この考え方を深化させて「Clinic」という評価体系を設定し、ユーザビリティを定量的に評価する手法を確立しています。「Clinic」では、5つの大原則(1.アイデンティティ、2.インフォメーションアーキテクチャ、3.インタラクション、4.アクセシビリティ、5.パースエージョン)を設けています。これをさらに20の中項目、100の小項目に細分化しました。それぞれの項目ごとで数値的な評価を行うことにより、全体のユーザビリティが数値の形で評価できるようにしています。
実際の評価は、専門家による分析・評価(ヒューリスティック評価)、ユーザーテスト、ユーザー観察やインタビュー……といった手法を組み合わせて行っています。多数の項目を、複数の手法で見ていくことで、より客観性の高い評価ができると思っています。
−− 評価の想定ユーザーは、どのようなものですか? 普遍的な視点があるのですか。
川添評価する対象となるWebやシステムによって異なります。多様な方が利用することが想定される場合には、特に特定ユーザーを想定するのではなく、使い勝手の原則に従った普遍的な視点から評価を行います。一方、対象ユーザーを絞り込みたい場合には「ペルソナ」と呼ぶモデルを設定して、その視点で評価を行う場合もあります。
ペルソナは、評価対象のWeb/システムが“特に利用してほしいと考えるユーザー”の仮想モデルです。クライアントからの要望や、ユーザーインタビューなどから、このモデルを作り込んでいきます。氏名、年齢、現住所、出身地、家族構成、職業、年収、最終学歴、趣味、インターネット歴……こうした項目について、一つ一つ具体的に作り込んでいきます。「東京都世田谷区千歳烏山に夫婦子ひとりで住む45歳の区役所員、鈴木一郎さん」などのようにです。ペルソナは特にシステムの設計段階で利用するのが効果的です。作り込んだペルソナの条件を、設計者間で共有するのです。そして、Webやシステムのプロトタイプに対し“鈴木さんだったらどんな画面遷移を望むだろう”“このボタンの配置で、鈴木さんはすぐにわかるだろうか”といった視点で評価しながら設計していきます。
−− ユーザビリティに注目する企業は、その数を増しているのですか。
川添はい。利用者にとっての使いやすさを追求するところは、確実に増えています。背景には、利用者の増加に加え、Webというものの標準化があると思っています。現在、多くの企業でWeb技術を利用したネットワーク構築が行われています。かつてのようにシステムの独自画面で操作するのではなく、インターフェースはブラウザで、という企業が多くなりました。また、Webページの記述言語やブラウザの標準化も進んでいます。Webを使う人が増え、技術が統一化されることにより、「もっと使いやすく!」というニーズが高まっていると言えます。
最近では、純粋なWebサイトだけでなく、業務システムやモバイルなどの環境でもユーザビリティの向上が言われています。私たちも、各種のSIerや、携帯電話のキャリアなどとご一緒に仕事をすることが増えてきました。
ユーザビリティを求める流れは、これからも続いていくと考えています。今後も、本当の意味でITの活用ができるよう、わかりやすさ/使いやすさを目的としたデザインとITの融合をはかっていたいと考えています。
